黄金伝説展での粒金
黄金伝説**古代地中海世界の秘宝**
国立西洋美術館(東京上野公園)
最近、都内で「黄金伝説」展の開催ポスターを見かけました。そのポスターには素晴らしい「粒金細工」の腕輪の写真が掲載されぜひ見てみたいと思い、上野の国立西洋美術館へ出かけました。
下記の写真(ポスター写真)は、粒金細工が施された腕輪の出土品で、バチカン美術館所蔵品です。薄い金箔上に鍛金技法で女性像、ライオン像などを打ち出し、それらに幾何学模様と線状模様の粒金装飾を施しています。これらの金粒の直径は、約0.1mmと非常に細かいのが特徴で、私の肉眼では正確には見えず、図録等での拡大写真で、微細の細工の詳細を見ることができました。この粒金技法で、作品が立体的になり、金の輝きが一層増します。
これらイタリア・エトルリアで発掘された、「粒金細工を施した装飾品の数々」の他、黒海に面するヴァルナで「6千年前の遺跡から発掘された副葬品・世界最古の金」。世界遺産トラキアで発掘された「総重量12kgもの金の発掘品」など、非常に見応えのある展示会でした。
以前、信楽にあるミホミュージアムで、粒金細工を施した「金帯」(紀元前6〜8世紀)、「帯鈎」等の粒金作品を見ました。その作品の金の直径は、「金帯」で約0.3〜0.6mm、「帯鈎」で0.3〜1.4mmでした。エトルリアの作品は、その粒の細かさと緻密さに驚かされます。
このような粒金作品の作り方・技法が大変興味のあるところです。しかし、この展示会では粒金技法の説明はほとんどありません。展示会の図録には、「この粒金技法の解明は不十分で、粒金細工でろうペーストの組成と、加熱温度の制御が重要」との記述があります。
「黄金伝説」の協賛であるTBSテレビが、「地中海黄金伝説**時空を超えた人類の秘宝の迫る**」を10月31日に放送しました。この番組で粒金技法を引き継ぐイタリア人「ザガローラ」さんの粒金細工に取り組む映像があります。ろうペーストの組成は分かりませんが、金粒の固定法、加熱法が大変参考になります。
粒金技法については、日本橋三越で開催(2015年5月)された「イタリア展」も大変参考になりました。「イタリア展」では、粒金細工の実演と展示がありました。ローマで「エトルリアの粒金技法」を再現・復元している工房「オラフィチェレッテイ」の職人が来日していました。創業者の孫と職人の方でした。職人さんが通訳を介して説明を要約しますと、
- エトルリアの技法を再現しているのはウチだけ。
- 粒金技法では、マラカイト(孔雀石、Cu2(CO3)(OH)2)を粉状にすり潰したものを使用。
- これを介して接合するので、純金を使っているが仕上がりは22金へ。
- ペーストは乳白色で、匂いは魚介の香り(磯の香)。マラカイトは緑色ですが。
- 金板は0.2㎜~0.7㎜を使用、部位によって、板厚、粒サイズを使い分け。
- 金粒は薄い板を細く切って、石綿のような断熱剤材の上で溶融して作成。
黄金伝説展の粒金作品をみて、粒金技法の解明と技法の確立のため、今後努力が必要と感じました。
腕輪(紀元前675〜650年、金、長さ26cm、幅6.7cm、直径10cm。イタリア、チェルベテリ、ソルボ墓地、レゴリーニ・ガラッシの墓地出土)